◇地すべり対策の概要

地すべりとは地すべりが発生するしくみ地すべり調査地すべり対策工法


◇地すべりとは   


 地すべりの定義はいろいろありますが、次のような定義が代表的です。

(1) 土地の一部が地下水等に起因してすべる現象又はこれに伴って移動する現象(地すべり等防止法)
(2) 特別な地質条件のもとで、特別の地すべり粘土を作りながら基盤の岩石を含めた地塊がすべる現象(小出博)
(3) 山地、丘陵における傾斜地で地塊の一部が下層のすべり面の滑材の助けを借りて重力の作用により滑動する現象(谷口敏雄)

 斜面上の土塊や岩石などが重力によって下方に移動する現象を一般にマスムーブメント
 (Mass movement)と呼びます。それは、次の6つの運動様式に分類されます。

崩落 (Fall) :岩石や土塊、土粒子の落下
転倒 (Topple) :地層の境目等で分離した岩塊が前方に倒れ込む現象や座屈破壊など
滑動 (Slide) :すべり面に沿ってその上部の土塊または岩塊が下方へ移動する現象
水平方向拡大運動
(Lateral spread)
:せん断や引張破砕にともなった側方への伸張運動
クリープ (Creep) :斜面を構成する岩石または土壌が重力の影響で長時間ゆっくりとした速度で下方に移動または変形する現象
流動 (Flow) :土および風化岩、破砕された岩の一般的な流体的挙動

 地すべりは滑動やクリープの要素が強い現象ですが、部分的にはその他の運動様式を含んだ複合現象です。
 地すべりは斜面災害の1つですが、同じような災害に崖くずれ(崩壊)があります。地すべりと崖くずれの違いについてはいろいろな方法で表現されますが、一般には表-1のように特徴の違いで表現されます。

 わが国における地すべり危険個所は全国で2万箇所を越えています。道路や宅地の開発などにともなう人為的作用によるものや未調査のものを含めると4万〜6万箇所に及ぶと言われております。 
表-1 地すべりと斜面崩壊の違い(渡,駒村らの表に一部加筆)
  
地すべり
崩壊
1)地質
特定の地質または地質構造の所に多く発生する。 地質との関係は少ない。
2)土質
主として粘性土をすべり面として滑動する。 砂質土(マサ、ヨナ、シラスなど)のなかでも多く起こる。
3)地形
5゚〜20゚の緩傾斜地に多く発生する。地すべりに特有の地形を示すことが多い。 20゚以上の急傾斜地の0次谷、谷頭部に多く発生する。
4)活動状況
継続性、再発性、時間依存性大。 突発性があり、時間依存性少。
5)移動速度
0.01mm/day〜10mm/dayのものが多く、一般に速度は小さい。 10mm/day以上で速度はきわめて大きい
6)土塊
土塊の乱れは少なく、原型を保ちつつ動く場合が多い。 土塊はかく乱される。
7)誘因
地下水による影響が大きい。 降雨、とくに降雨強度に影響される。
8)規模
1〜100haで大規模なものもある。 面積的規模が小さい。
9)徴候
大きく変動する前に亀裂の発生、陥没、隆起、地下水の変動などの微候が生ずる。 発生前の徴候がなく、突発的に滑落してしまう。


◇地すべりが発生するしくみ  


 地すべりが発生する原因を素因誘因にわけることができます。
 素因とは地すべりが発生する場所の地形や地質,地質構造,水文地質条件などが地すべりが発生しやすい状態にあることです。斜面の傾斜、遷急線との関係、移動土塊の地質、地層の走向・傾斜、断層・破砕帯、変質、貫入岩との関係、地下水の集まりやすさなどを検討します。
 地すべりが発生する場所には地域的な偏りがあります。また,同じ地域でも発生する斜面と発生しない斜面があります。地すべりが発生する場所には,地すべりを規制する何らかの規制条件があるのです。
 右の図は地すべりを規制する条件の例です。
 これらの規制条件によって地すべりが発生する場所やすべり面の位置が決まります。

 誘因とは地すべりが発生するトリガーとなるもので,自然的誘因と人為的誘因に分かれます。
 自然的誘因としては一般に降雨や融雪に伴う地下水圧の上昇を誘因とする地すべりが多いのですが,ほかにも地すべり末端の土砂が小規模崩壊や河川による洗掘などによって喪失することによるもの,積雪荷重や地震によるものなど様々です。

 人為的誘因としては斜面の切土や盛土,トンネル掘削などの土工によるもの,ダム湛水によるものなどです。

 

 つまり,地すべりは,もともと地すべりが発生する規制条件などの素因を持つ斜面に誘因としての何らかの作用が生じたことによって起こるのです。



 地すべりが発生する直前には地すべり周辺部に小さな崩壊が発生するとか,湧水が濁るなどの現象が発生することがあります。豪雨後の数日間や融雪時にそのような現象が発生した場合は注意が必要です。

◇地すべり調査  


 地すべり調査は予備調査概査、および精査に区分することができます。

 予備調査は文献、地形図、航空写真等の資料を用いた調査で、広域における地すべり地の予察を行い、あるいは地すべり地の概況を把握するために行うものです。

 概査は、地すべり災害の緊急性を判断し、また精査を効率よく行うために、 精査に先立って実施します。実態調査と称して地形測量や簡単な地表変動状況調査をこれに含める場合もあります。
 精査は、推定された地すべりの発生・運動機構を確認し、より精度の高い機構解析を行うために実施するものです。機構調査と呼ぶこともあります。

 それぞれの一般的な内容と作業の流れはつぎのようになります。

 予備調査
・文献調査
・地形判読調査

 概 査
 ・現地踏査
 ・精査計画の立案
 精 査  
・地形図作成
・地質調査
・すべり面調査
・地表変動状況調査
・地下水調査
・土質調査
・降水量等調査

 地すべり調査の目的は概ね以下の3つに大別されます。

(1)地すべり機構の解明と対策工の計画・設計
(2)地すべり活動の予知・予測
(3)対策工の効果判定・維持管理

 上述した地すべり調査の内容は主に(1)の地すべり機構の解明や対策工計画に関する調査の内容ですが、その観点からみた場合、さらに次のように調査の目的を細分することができます

(1)移動範囲・地すべりブロックの把握
(2)移動方向の把握
(3)移動量の把握
(4)すべり面位置の把握
(5)誘因の把握
(6)対策工設計に必要なパラメータの把握

 1つの調査が複数の目的を兼ねるものもありますが、地すべり調査においてはそれぞれの調査毎の目的を明確に意識することが重要です。

○現地踏査

 現地踏査は表-1のような目的で行います。

表-1 現地踏査の目的


  1. 地すべり範囲の推定

  2. 地質調査(地質性状と構造)

  3. 地形調査(微地形や地形による
    地質構造の推定)

  4. 地下水の分布の把握

  5. 運動形態の推定

  6. 発生原因の推定

  7. 今後の運動予測

  8. 活発化に伴う被害区域と
    被災状況の予測

  9. 応急対策についての検討

 ○すべり面調査
 すべり面調査は地中の変動量調査によるものとその他の地質調査等によるものに大別されます。それぞれの主な調査種には表-2のような方法があります。

表-2 すべり面調査の種類
地質調査等による方法
地中変動量調査による方法
ボーリング調査、物理探査、物理検層など パイプ歪計、孔内傾斜計、多層移動量計、すべり面測桿など

○地表変動状況調査
 地表変動状況調査は、地表に発生した亀裂、陥没、地盤の盛り上がり等の地表変動状況や、地盤の傾動、水平方向の運動量等を調査するものです。
 地盤伸縮計(図-1)、地盤傾斜計などの計測器による方法と標柱観測などの測量による方法がありますが、最近はGPS測量を用いた観測が多用されるようになってきており、光ファイバーやリモートセンシングなどを用いた方法なども試みられています。

○地下水調査
 地下水調査には、ボーリング孔を利用した地下水位測定、薬品等を流下させてその経路・速度等を求める地下水追跡試験、地下水流動層の垂直分布を推定する地下水検層、地すべり地の土層の透水係数を把握するために行う揚水試験等があります。
 その中でもすべり面に作用する間隙水圧に関する測定が重要です。地すべりが動き出す臨界時の間隙水圧分布と最大の間隙水圧分布を把握することで、対策工の効果をより正しく評価することができます。
 通常、地すべり地内の地下水帯は複数存在しますので、目的の地下水帯を絞った調査が重要です。すべり面付近のせん断帯の地下水圧を効率良く観測するために部分ストレーナ加工の地下水位観測孔が最近用いられています。

○土質調査
 土質調査は、すべり面の土質パラメータあるいは対策工の設計に必要な地盤の土質パラメータを把握するために行うものです。
 すべり面のせん断強度は通常の一軸圧縮試験や三軸圧縮試験などでは求めることができませんので、実際のすべり面サンプルでの直接繰り返しせん断試験やリングせん断試験など、すべり面の残留強度を求める試験を用いて調べます。ただし、すべり面を代表させるサンプルであるかどうか等、得られた値については慎重な検討が必要です。

<参考文献>

1)山田剛二、渡正亮、小橋澄治(1971):地すべり・斜面崩壊の実態と対策、山海堂
2) 渡正亮、小橋澄治(1987):地すべり・斜面崩壊の予知と対策、山海堂
3) 申 潤植(1989):地すべり工学−理論と実践、山海堂
4) 日本河川協会編(1997):建設省河川砂防技術基準(案)同解説、山海堂
5) 日本治山治水協会(1987):治山技術基準解説 地すべり防止編、

◇地すべり対策工法   


 地すべりの対策工法は、抑制工と抑止工に区分されます。
 抑制工は、地すべり地の地形、地下水の状態などの自然条件を変化させることによって、地すべりの滑動力と抵抗力のバランスを改善し、地すべり運動を停止または緩和させる工法です。
 抑止工は、構造物の持つ抵抗力を利用して地すべり運動の一部または全部を停止させる工法です。

  代表的な対策工法には以下のようなものがあります。
<抑制工>  
  ○地表水排除工(水路工,浸透防止工)
  ○地下水排除工
横ボーリング工集水井工,排水トンネル工
  排土工
  押え盛土工
  ○河川構造物(ダム工,床固工,護岸工)
<抑止工>  
  ○杭工
  ○シャフト工
  ○アンカー工
   

○横ボーリング工
 横ボーリング工は、水平やや上向きに行ったボーリング孔にストレーナ加工した保孔管を挿入し、それによって地下水を排除することにより、すべり面に働く間隙水圧の低減や地すべり土塊の含水比を低下させる工法です。このため、効果的に地下水位を低下させるよう、設計に際しては地すべり地域のみならず、周辺の地形・地質及び地下水調査等から、帯水層の分布、地下水の流動層を推定して、最も効果的に集水できるようにボーリングの位置、本数、方向及び延長を決定する必要があります。対策工効果を恒久的に持続するためには定期的なメンテナンスが重要です。

 


○集水井工

 集水井工は、集水用の井戸を掘削する工法で、深いすべり面位置で集中的に地下水を集水しようとする場合や横ボーリングの延長が長くなり過ぎる場合に用いられます。
 集水井は内径3.5〜4.0mの円形の井筒であり、その井筒内の集水ボーリングからの集水効果に主眼を置きますが、井筒自信の集水効果を得るために、井筒の壁面に集水孔を設ける場合があります。
 移動層内には複数の地下水帯が存在しますので井筒からの集水ボーリングは、すべり面に直接関与する地下水帯の地下水を効率よく集水できるように施工する必要があります。
 対策工効果を恒久的に持続するためには集水ボーリングの定期的なメンテナンスが重要です。

 

○排水トンネル工
 排水トンネル工は地すべり規模が大きい場合や地すべりの移動層厚が大きい場合などで、集水井工や横ボーリング工のみでは効果が得難い場合に計画されます。
 排水トンネル工は、トンネルからの集水ボーリングや集水井工との連結などによってすべり面に影響を及ぼす地下水を効果的に排水できるよう設計します。
 トンネルの位置は原則として不動地盤内とし、地すべりに影響を与える地下水脈の分布及びそれに対する地下水排除効果の効率性などを総合的に判断して定めます。
 対策工効果を恒久的に持続するためには集水ボーリングの定期的なメンテナンスが重要です。
○排土工
 排土工は、原則として地すべり土塊の頭部の荷重を除去することにより地すべりの滑動力を低減させるものです。排土工を計画する場合には、その上方斜面の潜在的な地すべりを誘発する可能性がないか、事前に十分な調査・検討を行うことが必要です。上方斜面の地すべりの規模が大きい場合には、本工法の計画は見合わすべきです。

○押え盛土工

 押え盛土工は、原則として地すべり土塊の末端部に盛土を行うことにより、地すべり滑動力に抵抗する力を増加させるものです。盛土部の下方斜面に潜在性の地すべりがある場合には、これを誘発する可能性があるため、押え盛土の設計に当たっては、盛土部基盤の安定性についての検討を行う必要があります。
 盛土位置での地下水の透水層が浅部にある場合、または地すべり末端部で地下水が侵出しているような場合には、押え盛土やその荷重によって地下水の出口が塞がれたり、背後部の地下水位が上昇したりして斜面が不安定になる恐れがあるため、地下水の処置には十分注意する必要があります。 


○杭工

 杭工は、杭を不動地盤まで挿入することによって、せん断抵抗力や曲げ抵抗力を付加し、地すべり土塊の滑動力に対し、直接抵抗することを目的として計画されるものです。地すべり地では、通常,鋼管杭が多く用いられます。最近では外径1000mmを越える大口径の鋼管杭も利用されるようになり,必要とする地すべり抑止力が大きい場合にも対応できるようになっています。

○シャフト工
 シャフト工は、地理的な制約などから杭工の打設機械等が搬入できない場合や大口径ボーリングに伴う地下への送水によって地すべりを助長させる恐れがある場合などに採用されるもので,直径2.5〜6.5mの縦坑を不動地盤まで掘り、これに鉄筋コンクリート構造の場所打ち杭を施工する工法です。大規模な削孔機械を使用しないため,同時に数基の施工が可能であるというメリットもあります。
 通常は剛体杭として設計しますが,すべり面深度が深く杭長が長くなる場合はたわみ杭として設計することもあります。
 シャフトを中空にして集水井工を兼ねる例もあります。

○アンカー工

アンカー工は、基盤内に定着させた鋼材の引張強さを利用して、地すべり滑動力に対抗しようとするもので、引張効果あるいは締め付け効果が効果的に発揮される地点に計画されます。
 アンカーは基本的には、アンカー頭部(反力構造物を含む)、引張部及びアンカー定着部(アンカー体及び定着地盤)の3つの構成要素により成り立っており、アンカー頭部に作用した荷重を引張部を介して定着地盤に伝達することにより、反力構造物と地山とを一体化させて安定させる工法です。